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04. Feb 2007

ISSN: 1864-1407

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Border shootings and travel restrictions

国境で発生した銃撃事件と旅行制限
2007年2月4日

2006年9月にチベット・ネパール国境のナンパラ峠近くで、ケルサン・ナ ムツォという17歳の尼僧が国境警備隊によって射殺された事件は国際メディ アの注目を集めてきた。この事件だけでなく、ネパールへ不法に国境を越える チベット人の苦しい状況は数十年来問題視されている。多くのチベット人がネ パールや、とりわけ彼らの亡命中の指導者ダライ・ラマの住んでいるインドへ の旅行を望んでいる。しかし、この事実が中国当局の反感と疑念を強めている ことから、合法的な渡航書類を入手する際チベット人は様々な障害を課せられ 妨害を受けている。

これは、チベットが他に多数抱える統治問題と同様に、犯罪、専横、買収が蔓 延するグレーゾーン出現の原因に繋がっている。必然的にチベット人は正規の 書類無しに国境を越え、またその過程において相当の困難や危険を覚悟の上で それを行う以外、選択の余地はないのである。当局が彼らのやり方と中華人民 共和国の法律を一致させ、旅行の目的に関係なくチベット人が自由に移動でき るように許可しない限りは状況が改善されることはないと思われる。

中華人民共和国の法律では、すべての中国人民と同様に、チベット人も望めば 海外旅行をする権利がある。しかし、現実には差別的規制が、チベット人が実 際に海外旅行をするのを妨げている。これらの規制は、民族毎にそのまま適用 されているのではない。中国本土から渡航書類を申請するチベット人は、たと えば留学を希望する学生は、他の中国人民と同様に困難に直面することは全く ない。しかしながら、チベット人としてチベット地方内で渡航書類を申請する ことはきわめて困難である。このことは民族的な差別というよりもむしろ政治 的性質を示しているが、同時にまた、現行の政治的思惑、問われている法規上 の安全保障問題、そして政策の曖昧さゆえに腐敗を作り出す状況を浮き彫りに している。政府の支配が最も厳しいチベット自治区においては事態は最悪であ る。

中国当局は、ダライ・ラマ法王あるいはいずれかの亡命機関との接触を厳重に 制限する正式な禁止令を施行してはいない(いずれにしても、チベット人の旅 行一般が禁止され なければ、その禁止令はとても実行可能とは言い難い)。 しかしながら、当局は依然、そうした接触を今後も厳しく規制していく構えを 見せており、また、彼らが国境警備に苦慮しているとか、チベット人がなんと しても中国を離れようとしているといった印象を払拭しようと必死だ。

そうしたことから、法を犯して国境を越えようとして捕まった人々の方が、ダ ライ・ラマや亡命機関との接触を臭わせながらも合法的にインドに旅行した人々 より、厳しい処遇を受ける。例えば、商売人の場合、たとえチベット自治区 (TAR)出身でも、パ スポートや旅券を入手するのにそれほどの困難に直面する ことはない。中国当局が、そうした商売人の多くはネパールへの正式な訪問を 利用して、こっそりインドに入り宗教的な儀式に参加したりダライ・ラマと謁 見したりするということを知っていたとしても、である。

近年、中国当局は個々に、これまでより自由な国境通過規定を試験的に実施し ており、国境付近に住むチベット人は一定期間内であれば、仕事上の目的を主 として、非公式に国境を越えてよいということで、ネパールとの間で合意に達 していた。しかしながらこの試みは、カトマンズにおいて彼らの多くが難民の ために用意された国連輸送部隊、および当時あったダライ・ラマ事務所が提供 する設備を利用し、そうした機会を捉えてインドに旅行しているということに 中国当局が気づいた時点で中止された。

パスポート発行に関する正式な規定があるようには思われないが、長期的な観 察の結果から、実際には、年齢や社会的地位あるいはチベット人が旅行したい 場所などが、必要書類が発行されるかどうかを決定する要因になっているらし いということがわかる。チベット自治区以外のチベット地区からの高齢の在家 者は、書類を発行してもらうために数千元の保証金を要求されるものの、書類 入手の可能性が最も高い。このことは、もし彼らが戻ってこなかった場合、彼 らあるいは彼らの家族に罰金が課せられる危険があるということを示唆してい る。若い人や僧侶は旅券を合法的に入手するのが最も難しい。彼らがチベット 自治区に住んでいる場合は殊更だ。以上の点を考慮すると、ナクチュ(Nagchu; 中国名Naqu那曲)出身の尼僧と見られるケルサン・ナムツォ(Kelsang Namts)の 銃撃事件はまさに起こるべくして起こった事件といえる。

正式な書類を持たずにインドに入るチベット人をみると、大きく2つのグルー プに分けられる。巡礼を目的とした人々と教育を受けるのを目的として送られ てくるこどもたちで、たいていが親元から離れて来る。巡礼者は、近い将来、 チベットに帰る意思があるのが一般的だ。そのため来たときと同じく、中国政 府に捕まる危険を賭して再び不法に国境を越えなければならない。こうした国 境越えが抱える問題はとりわけ、たくさんのこどもたちが移住するという悲劇 的な側面を持つ。こどもたちをダライ・ラマ学校に送り出す親にとって宗 教上の理由は、ほんの一部にすぎない。それよりも、親たちが直面する経済的、 また行政上の理由の方がもっと差し迫った問題であり、チベットの「いま」を 如実に表している。こどもを手放す親は、たいていの場合が地方出身者で、チ ベットの東方・北方地域(四川、甘粛、青海)からラサへ移住してきた学費が 払えない貧困層である。移住者であるため、彼らは旧共産主義体制の遺産であ る地域登録カードを持っていない(中国名:hukou/チベット名:temtho-テムト)。

いまや、チベット全土から移住して来てはラサのほか何処にでも居住すること ができるため、この登録カードは、意味をなさないも同然である。だが、地域 のテムトがなければ、定職に就くのは不可能といっても過言ではない。そのた め、生活の向上を求めてラサに来る移住者のほとんどが、わずかな賃金しか得 られない下働きに就くか零細事業に手を出すこととなる(その一方で、中国本 土からやってくる中国人は、収入のよい役所仕事に比較的容易に就くことがで きる)。

また、義務教育を9年とする条例が通過したが、政府が教育を受けさせる義務 を有するのは、地域のテムトを持つ家庭に対してだけである。入学が可能になっ たとしても、テムトがなければ、膨大な費用がかかる(中学の場合、一学期あ たり2,500元〔249ユーロ、164ポンド、322米ドル〕、高校の場合はさらに高く なる)。テムトと役所仕事との間には密接な相互関係がある。テムトは、地元 委員から3,000元(298ユーロ、197ポンド、387米ドル)で購入することができ るが、政府機関かそれ相当の機関で働いていることが条件で、そうした職に就 くのはテムトがなければかなり困難だ。

このほか、テムトを入手するには、公式な手段によらない方法もある。その場 合、20,000~30,000元(1,989~2,983ユーロ、1,311~1,967ポンド、2,577~ 3,866米ドル)かかるだけでなく、行政官に対しコネと贈与が必要と なる。ほとんどの移住者にとって、これは、法外な手段であることは明らかで、 一般に、経済上の理由から、チベット内ではこどもを学校に通わせることがで きないでいる。こうしたことが背景にあって、多くの親たちは、約4,000元 (398ユーロ、262ポンド、515米ドル)を支払わなくてはならないとしても、 行った先で亡命チベット人らの世話になることを承知で、こどもたちを密かに インドへ送り出す道を選択している。

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